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ICT工事は割に合わない?――現場動かす「ソフト」が変わる◆経験少ない若手も使えて簡易明瞭 熟練性と共存 場面見極めて融合

 長野県は今年度、県内26カ所でICT活用工事を予定する。昨年度の5カ所から大幅に拡大した。が、小規模工事ではとくに、ICT活用の効果は限定的。必ずしもコストダウンや工期短縮、人工削減につながるとは限らない。業界からは「ICT工事は割に合わない」という声が多いのが実情だ。何のためにICT活用工事を行うのか、対象の拡大とともに、根本の見つめ直しもまた必要になっている。一つの事例を追った。

 昨年度に県が発注した坂城町網掛地区の急傾斜地崩壊対策工事。既存のり面を掘削して成形したところに植生基材を吹き付けて安定化、下部に重力式コンクリート擁壁と落石防護柵を施工する内容だ。
 計画掘削土量1400㎥、のり面成形面積550㎡。そこに擁壁と防護柵を加えた工事金額は約3500万円と、けっして大きな規模ではない。ゆえに、ICT活用は想定されていなかった。

◆中小建設業にこそ必要

 『ICT活用工事は割に合わない』。それが、県内建設業の大半の見方だ。
 ICT工事は一般的に、広い範囲を面で施工する単工種の工事で費用対効果が高い。土工であればおおむね土量1万㎥以上、契約額1億円以上。だが、県発注工事でこれだけの規模はわずかだ。導入効果に比べ機器やシステム、建機リース、測量などにかかる負担が大きいとし、業界からは費用増額や歩掛変更を求める声があがっている。
 冒頭にあげた坂城町網掛地区の急傾斜地対策工事も「本来ならばそのまま普通に施工するのが一般的」と、受注者の関口建設(坂城町)関口守社長。にもかかわらずICT施工を導入したのは、こんな思いがあったからだ。
 「土量1万~2万㎥規模でやっている限り、ICT工事は県外大手や地場トップ企業の世界。当社のような小さな業者は関係ない。しかしそれでは『生産性向上』というi-Constructionの趣旨に反すると考えた」(関口社長)
 地場の中小建設業にICT工事を普及させる必要性を感じていたのは、発注者も同様だ。土量1000㎥程度の工事で効果が得られれば普及の弾みになると考えていたところに、受注者から積極的な提案は「チャレンジの好機だった」(千曲建設事務所整備課)という。

◆明瞭なソフトで現場動かす

 取り組みの結果は下記のとおりで、ICTに必要な機器やシステム、データ作成、建機リースなどは変更協議で増額。が、最終的にかかった費用約300万円のうち、100万円は関口建設が負担した。
 ただし、コストダウンには至らなかったものの、人工の削減や安全性の向上など、発注者・受注者ともに認めるメリットは多い。とくに両者が強調したのは、コミュニケーションだ。
 「立体的に見られることがありがたい。パソコンに現場が入っているようなもの。状況をイメージしやすいから電話でも十分コミュニケーションがとれる」と、経験3年目になる千曲建設事務所の監督員・坂田健剛技師。「気になって何度も現場を確認しに行くことがなく、非常に助かった」
 建設現場はこれまで、ベテラン職員・技術者の専門性・熟練性に依存しながら動かしていた側面が強い。が、ICT工事は誰もが扱える簡易で明瞭な「ソフトウェア」で稼働する――人が足りない時代の新たなスタンダードで、規模の大小問わず、ICTを活用する意味の一つがそこにある。
 関口社長は「当社の現場代理人も35歳の若手。『スマホ世代』といわれる20~30代の技師や技術者が、これからICTを使いこなしていくだろう。ただ、逆にいえば、その主体となる若い人材が入ってこなければ意味がない」と説く。

◆いま重要となる「見極め力」

 もちろん、建設現場を動かすソフトのすべてがICTスタンダードに切り替わるわけではない。今回の工事も、ICT施工は土工部分のみ。擁壁・防護柵は従来施工で、型枠や鉄筋、コンクリート打設にかかる手間や時間は変わらない。
 また今回は幹線道路脇の工事だったが、山間部などでは現場への仮設道路から切り開かなければならないケースもある。自然相手の建設工事は一律に標準化できないことも多く、安全確保にはベテランの勘や経験を含めた判断も欠かせない。専門性・熟練性にもとづく「ソフトウェア」もまた不可欠だ。
 国土交通省のICTアドバイザーでシーティーエス(上田市)i-Construction推進部の関口伸吾課長は「ICTはすべての工事や工種、場面、場所で効果が出るものではない。無理にあてはめようとすると、かえって生産性を下げる」と指摘。従来の基準と新しい基準――「どちらで業務を最適化するかの見極めがと使い分けが、いま重要になっている」と話す。
 「主体的にICT活用工事に取り組み、失敗・成功を積み重ねることで『見極め力』が付く。地域の中小建設会社も、自らできるところは自らやっていくことが大事。そうして力をつけた会社は、これから強くなるのではないか」(関口課長)


●坂城町網掛地区急傾斜地崩壊対策工事のICT導入内容と効果
※受発注者への取材にもとづく
【導入内容】
①3次元起工測量
 ・UAVとLS、試験的に2つの手法で行い結果を比較
 ・竹林を伐採してから測量
②3次元データ作成
 ・平面図、横断図、縦断図などから3次元設計データを作成。起工測量による3次元
  データを重ね合わせることで施工土量を算出
③ICT施工
 ・MGバックホウ。位置計測装置と3次元データを搭載し、モニターにバケット刃先
  位置、設計基面、設計基面との誤差を表示
 ・60代ベテランオペレーターがガイダンスに従い施工
④3次元出来形管理
 ・施工完了後、LS測量で出来形を計測。設計データとの比較を可視化
【導入効果】
①起工測量
 ・UAVが2時間、LSが4時間(6点)。ただし準備工に時間と労力が必要
 ・時間はUAVが短かったが、測量の両サイドで50㎝ほど実際より高い値が出た
  (隣接する立木に高さを引っ張られたと推測)ため、LSのデータを採用
 ・ただし両サイド以外は±5㎝の差で、ほぼ同じ精度
②3次元データ
 ・計画土量は約1400㎥、起工測量データで土量算出した結果は1100㎥。
  正確な土工量を事前把握
 ・土工量が減った分の施工費用や残土処理費用を抑制
③ICT施工
 ・従来は起工測量からデータ作成、丁張設置・確認、掘削開始まで7日。
  今回は丁張設置の必要がなく4日で済み、作業員も省力化
 ・従来作業では丁張りに沿ってのり面を切っていく際、出来形確認のため重機の横に
  作業員がついて確認・指示する。そのプロセスと、かける人員を削減、
  同時に転倒・転落、重機との接触リスクも低減
 ・作業員に気を配る必要がなくなり、重機オペレーターは足場路肩の安全や施工精度
  に集中
④3次元出来形管理
 ・LSによる3次元出来形測定の結果と設計データの比較を可視化したヒートマップ
  での管理が可能となり従来の管理より工期短縮(ただし従来の出来形計測も実施)
 ・植生工前に10点で行ったトータルステーションによる出来形計測ではすべて規格値
  の50%以内
[新建新聞10月15日号抜粋]

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