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延焼広げた「裸」の木造 ~糸魚川大火から1カ月半 更新遅れた密集地に強風~

 国土交通省は3日、糸魚川市において第1回糸魚川復興まちづくり推進協議会を開いた。国は被災地区の課題とその解決に向けた検討を開始している。

 「糸魚川大火」は、地震によるものを除けば酒田大火以来40年ぶりの大規模市街地火災であり、悪条件が重なれば、現代都市でも大火災が起こり得ることを浮き彫りにした。

 「木造密集地」「強風」「消防力不足」というキーワードのうち、建設関係者がまず考えるべきは「木造密集地」をどうするかだ。国土交通省は「危険な密集市街地」を指定し道路の拡幅や建物の更新を行って安全確保を目指しているが、指定されているのは巨大地震で火災が心配される地域が中心で、糸魚川市は指定されていなかった。同様の地域は全国に数多ある。大火から1カ月半、防火に詳しい識者と長野県に課題と今後の取り組み方を聞いた。


 糸魚川大火は建物144棟を焼き、延焼地域は約4万㎡に達した。

 地震・津波による火災を除けば、焼失面積約15万㎡に至った1976年の山形県酒田市の大火以来の大規模市街地火災。延焼拡大の要因として「木造の密集」「風速20m超の強風」「消防力の不足」があげられている。悪条件が重なれば、市街地大火は現在も起こり得ることが明確になった。

 古い店舗や住宅が狭い道路を挟んで隣り合う木造密集地は珍しい場所ではない。同じような建物配置、道路状況は全国に数多ある。問題は、その「悪条件」が具体的に数値化されていない点だ。

 長野県建設部都市・まちづくり課の小林弘幸企画幹は「国交省が指定する『危険な密集市街地』は長野県はゼロ。しかし糸魚川のある新潟県もゼロだった。つまり密集という指針だけでは計れないということ。では長野であれほどの強風が吹くかといえば疑問で、糸魚川と同じような密集地だからと対応する必要はない。それよりも新しい知見が必要になっている」


■燃え抜けにくい建物 「あれば違っていた」
 糸魚川でも「燃え抜けにくい構造の建物がもう少し多ければ、ここまでの被害には至らなかった可能性が高い」と桜設計集団一級建築士事務所(東京都)の安井昇代表はいう。

 安井代表は火災発生から数日間で2回にわたり現地を調査。1階または外壁が残っていながら、2階と小屋裏が完全に燃え抜けている建物を複数見た。「隣家の炎が風下に伸び窓や軒裏を突き破る、あるいは飛び火が屋根や窓から侵入するなどして、火が短時間で一気に燃え広がった状況が推測できる」と話す。

 現地は1960年に指定された準防火地域で、新築建物の2階建ては延焼のおそれがある部分の軒裏・外壁を防火構造、3階建ては耐火建築物にすることが求められている。開口部はいずれも、網入りサッシなどの防火設備としなければならない。だが実際は指定以前に建てられた建物が多く、大半が要求性能を満たしていなかったとみられる。
 準防火地域では、火災時の延焼速度を遅らせるため燃え抜けにくい建物で街を構成する。すると隣家で火災が起こっても「もらい火」しにくい。燃え広がりを食い止め逃げる時間を稼ぐとともに、消火範囲を限定し既存の消防力での対処を可能にするねらいだ。が、安井代表が延焼地域の周辺で被害を免れた建物90棟を調査したところ、防火設備が求められる窓の67・7%に対策がなかった。

 「ここから推測すると、延焼地域も同様に約7割、つまり3棟に2棟が火に対し無防備な状態だったと考えられる。その大半が2階建て以下の木造、正確には準防火地域の要求性能を満たさない『裸』の木造だった。それが出火元近くに固まっていたことに加え、道が狭かったため十分な初期消火ができず、風下に向かってどんどん延焼が広がったと想像される」

 小林弘幸企画幹の考えも同様だ。「糸魚川で被害を受けた家の多くが防火対策が進んでいなかった。一軒だけ残った木造住宅があるが、逆にいえば、あの家のように十分な防火対策をしていれば木造でも燃え抜けない構造にできるということ。そこにもっと注目するべきだ」


■防火構造一歩ずつ 共同体で守る
「網入りガラス入れるだけでも」

 木造住宅でも、外壁や屋根、開口部、軒裏を補強して防火構造や準耐火・耐火建築物をつくることは十分可能だ。最近は木あらわしの仕様でも燃え抜け抑制性能を出せることがさまざまな実験で確認されている。

 安井代表は「現地は1932年の大火のあと一度更新されたため、その後の再更新がまだ行われていなかった」と指摘。今後は新築・リフォーム含め、防火措置によって簡単に燃え抜けない建物を増やしていくことが必要と説く。その際のポイントは開口部と軒裏だ。

 古い建物でも、外壁は土塗りやモルタル塗りなどにより、防火構造以上の性能を有するものが少なくない。現地でも外壁は比較的燃え残っていたが、2階窓をはじめとする開口部、軒裏は強風による炎と飛び火の侵入を簡単に許していた。

 「準防火地域に必要なのは延焼時間を稼ぐ性能。すなわち建物外周で炎を食い止めもらい火しない。これにより出火元のみしか燃えない状況をつくる。一気に街を更新するのは難しいが、少しずつ防火措置を加えていきたい。たとえば開口部を網入りガラスに替えるだけでも延焼速度はかなり違う」

 火災に対しては、生命・財産を、個人を超えて共同体で守る意識が欠かせないと安井代表はいう。「出火は誰でも起こす可能性があり、被害はけっしてゼロにはならない。が、とにかくゆっくり燃える状況をつくり、消防活動をしやすくする。飛び火対策には住民による警戒体制も必要だろう。建築、消防、住民がそれぞれの立場で対策に取り組みたい」

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