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「いかに効率的に戦えるか」で発達

 ここ数年、職場の熱中症死傷者が400~500人台で高止まりしている。なかでも発生件数が最も多いのは建設業だ。業界を挙げて熱中症対策をすることは不可欠。そこで重要となるのは、職場での熱中症対策の運用と同時に、なぜ熱中症になるのか、どうすれば熱中症を防げるのか、人間の身体機能を正しく理解し、働く人間個々人のカラダを強くする“攻め”の熱中症対策だ。


 業界全体で予防対策が行われている。建設業労働災害防止協会長野県支部(藏谷伸一支部長)は5月飯田、6月長野、7月松本で作業者のための熱中症予防教育を実施。6月に各分会に配布した「三大災害絶滅運動実施要領」のなかには「職場の熱中症予防対策チェックリスト」を盛り込み、活用を促した。

 県労働局も対策をまとめている。平成21~25年の県内における発生数とそのときの状況を事例として紹介し、WBGT値が基準を大きく超える場合には作業を行わないよう見直しを図る必要性を説く。

 こうした職場における対策・運用と同時に、個人が熱中症に強くなることもまた不可欠だ。
 「それには、血液量を増やすことが有効です」と話すのは、信州大学大学院医学系研究科・能勢博教授。運動生理学のスペシャリストだ。

 なぜ血液量が増えることが有効なのか。そのためにはまず、どうして熱中症が起きるのかを知る必要がある。

 「人間は生きている限り常に体内で熱をつくっています。そのため、体温が高くなると人間は皮膚血流によって熱を体の中心部から皮膚表面へ運び放散する。さらに血液中の水分から汗をつくり出し皮膚表面から蒸発させて気化熱で体温を下げようとする。この体温調節機能が働かなくなると、体内に熱がこもってしまうのです」――この状態が熱中症だと能勢教授は説明する。「車で考えればわかりやすい。筋肉というエンジンが動いて熱を出したら、皮膚血流・発汗というラジエーターで冷却しなければなりません。それが十分でないとオーバーヒートを起こす。それが熱中症なのです。ここで重要なのが、皮膚血流、発汗機能を維持・高進するのが血液量だということです」。

 つまり、血液量を増やせば、ラジエーターの機能を上げることができるということだ。

 「建設業などの本人がややきついと感じる作業中に体が出す熱を、ラジエーターが機能せずに体外に放散できなければ、およそ20分で体温が39度まで上がる計算になります。『何時ごろ、何度くらいの気温は避ける』というような統計データで熱中症を考えるより、人間の身体の機能から考えたほうが効果的な対策が取れる」と能勢教授はいう。「血液量を増やし、熱中症になりにくい体をつくる。つまり“避ける”ではなく“攻める”熱中症対策をするべきです」。


■ 鍵は「牛乳」

 では、どうすれば血液量を上げられるのだろうか。「仕事が終わったら牛乳を飲むのも対策の一つです」と能勢教授はいう。「ややきつめの運動をした後30分以内に牛乳のような糖質・乳タンパク質を含む食品(牛乳なら200~400ml)を摂取することで、数時間で血液量が格段に上がることが実験で明らかになっています」。

 また、もう少し時間がかかるが、牛乳は血液量を増やすだけでなく筋肉も太くする。筋肉が太く、強くなれば心臓へ血液を戻すポンプの機能が上がるため一石二鳥だ。


■ 即効性には水分補給

 とはいえ、現場では熱中症予防に牛乳より即効性のある水分補給が必要だ。ただ、水も、単に飲めばよいというものではない。「1回に飲む水の量は150~250ml程度。それを小まめに飲む」。一度に大量の水を飲んだとしても、吸収が追いつかず、胃にもたれたり、下痢をおこして体外に排出されてしまうからだ。お茶やコーヒーは利尿作用があるので向いていない。冷たすぎると胃が収縮してしまうので「5~15度くらいが適温」だ。「水よりも塩分とブドウ糖が含まれたスポーツドリンクや、経口補水液がいい。『今日のためにスポーツドリンクを飲み、明日のために牛乳を飲む』と覚えておくといいでしょう」


■人間生来の機能を理解

 「生理学において、熱中症を防ぐための研究が進んだのは第二次世界大戦の北アフリカ戦線なんです」と能勢教授は話す。「どれだけの水と塩分を持っていけば兵隊が熱中症にならずに戦えるか、つまり兵站です」。 いかに効率的に、必要十分な量で兵士を動かすことができるか。その後、このノウハウは北欧や南アフリカの鉱山において利用され、さらに新しい知験が蓄積され、現在のスポーツドリンクの開発につながったという。

 「生理学の観点でいえば、労働開始20分までは体温が危険レベルまで上昇することはないわけですから、20分作業をした後は水風呂や水シャワーを浴びて休んで、また作業に出ることができるといえます。これは極論ですが、熱中症にならないようにと外の作業を避けて、クーラーのあるところで休むのではなく、人間の生来もっている体温調節機能を理解して、血液量を増やして暑さに強い体をつくることこそが重要ということです」[新建新聞7月15日号抜粋]

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